狂犬病の予防注射は、きちんと受けていますか?
子供の頃(20〜30年ほど前)は、野良犬に噛まれると狂犬病になると脅された?ものです。
大人も子供も、狂犬病は怖いものだと認識していましたが、
長い間、国内での発生がなかったことから、狂犬病への危機意識が薄れてきています。
そんな中で、脅していた年代の方が、たて続けに2人も、国内で発症してしまいました。
感染自体は、国内ではないにしても、国内での発生の可能性も高まってきているといえるでしょう。
狂犬病とは
ウイルス性の人畜共通伝染病で、人、犬はもちろん、キツネ、アライグマなど、ほとんどの哺乳動物が感染します。
感染動物などに咬まれると、唾液を通じて高い確率で感染し、発症すると動物でも人でもほぼ100%死亡します。
感染した場合は、できるだけ早期に、ワクチン投与などを行い、発症を抑えることで防ぐことができる。
日本での狂犬病は1957年以降発生しておらず、1970年にネパールで野犬にかまれ発症し死亡した例があったが、
2006年の11月に2件つづけて、フィリピンで犬にかまれ国内で発症しました。
全世界では、毎年3万5,000〜5万人が狂犬病によって死亡しています。
狂犬病の発生がないと日本が認めている地域(指定地域)は、2005年6月7日時点で、
台湾、アイスランド、アイルランド、スウェーデン、ノルウェー、英国(グレート・ブリテン及び北アイルランドに限る)、オーストラリア、 ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム
の11地域のみで、現在も多くの国で発生しています。
狂犬病が発生している地域でも、地域により狂犬病発生状況は大きな差があり、
ヨーロッパ諸国や北米では、イヌやネコに対する狂犬病対策の実施によってイヌやヒトの狂犬病は発生はなく、森林地帯のキツネなどの野生動物にみられます。
しかし、アジア、アフリカおよび中南米では依然として動物による咬み傷が原因での狂犬病例が多数発生していて、ヒトの狂犬病例は、全世界の99%がこの地域で発生しています。
予防注射は法律で決められています
狂犬病の発生を予防する為に、狂犬病の予防注射を年に1回受けることは、法律で定められています。
法律で定められている以上は、飼い主の義務です。
犬の登録はもちろん、毎年の注射は、受けるようにしましょう。
狂犬病予防法とは、
狂犬病の発生を予防し、そのまん延を防止し、及びこれを撲滅することにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ることを目的とするものです。
この法律では、犬の登録と狂犬病の予防注射を毎年1回受けさせなければならないとあり、
登録した際に交付される登録番号や自治体名が記載された鑑札と、
予防注射を受けたことを証明する注射済み票の2種類を、首輪などに着けることを飼い主に義務付けている。
違反した場合は20万円以下の罰金が科される。
国内で発生していないのに必要?
日本国内で狂犬病が長く発生していないのは、
島国であるため、防疫活動が実施しやすい点と、狂犬病の予防注射によるものが大きいと考えられています。
ところが、検疫制度は、厳しくなってきているとはいえ、検疫対象外の野生動物を含む多様な動物が多数輸入されています。
合法的に持ち込まれるもの以外にも、不法に入ってくる動物などにより、狂犬病が持ち込まれる危険性があります。
実際、国内における防疫体制は緩んでいたようです。
ロシアの船員は犬を航海の守り神と信じていることなどから、多くの船が犬を乗せています。
狂犬病の多発国であるロシアの犬が不法上陸して狂犬病を持ち込むことが懸念されていながら、
「不法上陸禁止」を呼びかける看板が老朽化して破損しているような状況であった。
国内での発症を受けてようやく新しい看板が登場することになるなど、水際の対策は、とても万全とはいえません。
また、予防注射の接種率が年々下がってきています。
接種率が低い状況では、狂犬病が浸入した場合に、感染動物が発覚するまでの時間がかかり対応が遅れる可能性があるとともに、
まん延を防止する程の効果は期待できません。
厚生省発表の2005年のデータでは、登録頭数6,576,487に対して、予防注射頭数4,862,679で、狂犬病の予防注射の接種率は73.9%です。
感染防止には、70%以上が必要とされていますので、
この数字だけみると大丈夫なようですが、登録されていない犬も多くいて、実際の接種率はもっと低いです。
日本ペットフード工業会の調べでは、飼い犬は1300万匹というデータがあります。
そこまでいないにしても、1000万〜1200万匹はいると考えられています。
これらの数値から考えれる接種率は50%を切っていることになります。
防疫体制が充実してない上、予防注射の接種率が下がっている状況では、
国内でいつ発生してもおかしくない状況です。
狂犬病注射による危険はないの?
おそらく飼い主の方が一番気になる点は、愛犬の健康への影響かと思います。
ワクチン接種での注意としては、副作用があり、100%安全なものではありません。
狂犬病の予防接種で亡くなったという犬もいます。
ワクチンとは
弱毒化した病原体(生ワクチン)や死滅した病原体(不活性化ワクチン)を注射することで、
その病原体に対する抗体を作り、未然に病気を予防します。
副作用は
1〜2日ほど元気がなくなったり、食欲が落ちたりすることがあります。
ほとんどの場合は、安静にして様子を見ていれば、問題ありません。
ごくまれに、急激な血圧低下や痙攣、嘔吐などのショック症状がみられ、最悪の場合は、亡くなることもあります。
全身性のショックは注射後数分以内に現れますので、一刻も早い応急処置が必要とされます。
最近のワクチンの安全性は極めて高く、局所的な過敏症で5%未満、重篤で命に関わるような全身性ショックは
きわめてまれで、数千から1万例に1件にしか起こっていません。
安全性が高いとはいえ、狂犬病のワクチンは、安全性より、確実性が重視されているのが現状のようです。
狂犬病予防による注射は、もともと人を守るための法律です。
愛犬への安全性より、確実に効くことが重視されるのは、しょうがないのかもしれませんが、
より安全なものを使用できるようにして欲しいですね。
命に関わるような危険にさらされる確立は、決して高いものではありませんが、
リスクを理解した上で、注射をするかしないかの最終的な判断は、飼い主の責任です。
獣医師によって注射不適当・要注意とされた犬は、接種を猶予されたり免除される場合があります。
例えば、高齢、病気やケガの療養中、手術直後、妊娠中もしくは妊娠の可能性があったり、
激しい副作用の可能性がある場合などです。
注射を打つ際の注意点は?
- 健康であることが予防接種を受ける基本です。
体調の悪い状態の時は、取りやめましょう。
- 以前、副作用が出た場合は、集団での接種は止めて、病院で受けましょう。
- 他のワクチンとの同時接種は避けましょう。
- 接種の後、急性のショックの有無を15分程度観察してから帰宅しましょう。
- 接種後、2〜3日は激しい運動を控えましょう。
法律で定められている以上は、注射をしないという選択はないのですが、
愛犬への負担もあるので、そう単純なものでもありません。
とはいえ必要以上に、注射が危険なことのように煽っていたり、制度自体への問題を語るサイトも多くありますので、
不確かな情報に流されず、冷静に判断するようにして下さい。
法律に問題があると考えるのであれば、法律自体の改正を行うように働きかける必要があります。
義務は守らないと権利も主張できません。
たとえ、今、狂犬病が国内で発生したとしても、すぐにまん延して、外出もできなくなったり、
予防注射をしていないからといってすぐに愛犬が危険な状況になるとは考えにくいです。
ただしパニックになって、大量に犬を捨てる人が増えるなどすると、どんな事態になるかは予想できません。
狂犬病の危険性が大きく注目された時に、法律を守っていない人が多いということになると、
マナーや道義的な話し以前の問題で、
犬を飼っている人の主張が受け入れられにくくなるでしょう。
そうなると、犬と暮らすことが、とても窮屈になり、犬と一緒にいける場所も少なくなってしまいます。
狂犬病だけでなく、社会からも、愛犬を守るという意味で、予防注射をきちんと受けることは必要です。
参考文献&サイト
write:2006.11.29 ヤスハラD